Vol.33
シワが絵になる一着を。
日常が楽しくなる
松浦弥太郎の
〝理想のスーツ〟
プロジェクト!(前編)
パパスのクリエイティブオフィサーを務める松浦弥太郎が、今までのパパスにはなかった新作スーツを企画中! そんなニュースを聞きつけて、さっそく取材させてもらいました。〝かっこいいスーツ〟ってなんだろう? そもそもスーツって、なんのための服なんだろう? そこには私たちが毎日を楽しく暮らすための、新しいヒントがありました。
- # 松浦弥太郎
- # リネンスーツ
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松浦弥太郎にとってスーツってどんな服?

――松浦さんって、スーツを着ることもあるんですか?
松浦 ありますよ。ビジネスマンの方々と較べたら、着る機会は少ないかもしれないけど、ちょっとめかし込んで音楽を聴きにいったり、フォーマルなレストランで食事をするときには決まってスーツを着ていきます。
――じゃあ、義務感で着る服というより、楽しいときに着る服、みたいなイメージなんですかね?
松浦 そうですね。まあ、TPOに合わせてという感じです。でも、最近ではより日常的な普段着としてスーツを着たくなっているんです。どうしても今まではイギリスやアメリカのカチッとしたスーツ文化にとらわれてしまっていたんですが、近頃はワークウエアの延長線上にあるような、暮らしに密着した服としてスーツを着てみたい。1920〜30年代の労働者たちが着ていたような一張羅のスーツって、シワだらけで袖口や襟が擦り切れていても、素敵じゃないですか。




松浦弥太郎氏が新しいスーツをデザインする上で着想の源になったと語るのが、20世紀初頭を生きた労働者たちのスーツスタイル。そこにはジェントルマン的なスーツ文化とはひと味違う、毎日を暮らすためのリアリティがあります。
――人間と服とが一体になったような魅力がありますよね。
松浦 去年パリを旅したときに、パパスのアイリッシュリネンのスーツを一着持って行ったんですが、それもすごくよかったんです。旅人として、訪れた街に対する敬意が自然と伝わるのか、周囲の反応も変わってきますし。なんというか、着る服によって、街と自分との関係性が深まったような気がして。そこで、ビジネスやハレの日だけではなく、当たり前のように日常に着るためのスーツがあるといいなと思ったんですよね。

2025年に旅したパリでのスナップ。パパスのリネンスーツとともに過ごした旅の日々が、今回のスーツをつくるきっかけになったとか。
――それで今までのパパスにはないスーツの企画が始まったんですね!
松浦 そうなんです。コンセプトは〝シワの美しいスーツ〟。その名も「THE SHIWA SUIT」です。
――なんと、「シワスーツ」! スーツにおいて、シワってある意味NGポイントみたいなイメージもありますが・・・。
松浦 恥ずかしいものとか、だらしなさの象徴みたいに思われているところもありますよね。でもシワの美しさって、ある意味では日本的な着物の美意識に通じるところもあると思うんです。ただ、それにはもちろん素材とカタチありき。だからこのスーツでは、「SPENCE BRYSON(スペンス・ブライソン)」というアイルランドの生地メーカーから、最も上質なリネン生地を選びました。



パパスの新しいスーツ「THE SHIWA SUIT」は、いわゆるMTO(メイド・トゥ・オーダー)。アイリッシュリネンの名門として知られるスペンス・ブライソン社から、松浦氏がこの3色を厳選。ここからお好みの色とサイズで、パンツと袖の丈を調整したのちに、あなただけの一着をお届けします。詳細は次回のWebマガジンでお知らせしますので、お楽しみに。
――リネンを選ばれたんですね!
松浦 リネンは洗えば洗うほど味が出るし、着れば着るほど柔らかくなって体になじむ、理想の素材ですよね。リネンは元を辿るとデニムと共通するところもあると思います。経年の変化を楽しむというような。ぼくは夏だけじゃなくて、冬でもしょっちゅうリネンを着ていますよ。そのなかでもスペンス・ブライソンの生地は、リネン特有のシワが、いわゆる〝線〟にならずに、きれいな〝ドレープ〟を描き続けてくれる。そこがいい。〝線〟になったシワって、取りたくなっちゃうじゃないですか。


たっぷりとしたリネンのシワをこよなく愛する松浦氏。この日もホームスパンのリネンで仕立てられた「Bergfabel(バーグファベル)」のシャツジャケットを着ていました。この審美眼から生まれてくるスーツは、いったいどんなプロダクトになるんだろう!?
――確かに、松浦さんが今日着ているジャケットもそうですが、上質なリネンのシワっていい表情を描きますよね! デザインについてはどんなふうになるんですか?
松浦 まだ実物はお見せできないのですが、いわゆるきちんとしたスーツと、ワーク系スーツの中間、といった雰囲気でしょうか。パパスらしいゆとりのある身頃と袖、そして動きやすくて軽い仕立てを大切にしています。あとは後ろ姿の美しさにも、こだわりました。個人的にはノートや本、カメラを持ち歩けるような、大きめのポケットが気に入ってるかな。ここにもちょっと秘密があるんですが、実物を見てのお楽しみということで(笑)。今はサンプルを着込みながらアップデートし続けているのですが、いたるところに、ぼくの理想と工夫が反映されたスーツです。とにかく、毎日着たくなる服になるように。
リネンのシワとともに人生の思い出を刻んで

――どんな着こなしに合わせてほしいですか?
松浦 カチッとネクタイを締めるというより、カジュアルな着こなしに合わせてもらいたいです。Tシャツだってポロシャツだって似合うと思いますし、スカーフかバンダナでも巻けば、どこに行っても恥ずかしくない着こなしになると思います。実は今、これに合わせるためのスウェットやショルダーバッグ、そして共生地のハットもつくっているんですよ。ハットは付属品にしようと思っています。


松浦氏が長年使い続けている40年代の小型ニュースペーパーバッグ(右上)をリファレンスにした縦長ショルダーバッグのサンプル(左)。前回デザインしたバケツ型トートはあっという間に初回入荷分が完売しましたが、次回も争奪戦になるかも!?

リネンスーツというと、いまだに往年の紳士然としたイメージも根強いですが、こんなキャンバススニーカーと合わせて、カジュアルに楽しむのが松浦氏とパパスの提案です。
――これがそのバッグですか!?
松浦 そう。あえてキャンバスというのがいいですよね。「THE SHIWA SUIT」にスニーカーを合わせて、こんなカジュアルなバッグを肩から提げて、日曜日の朝にパンでも買いに行くなんて、理想的ですよね。次回のパリ滞在でも、このスーツを毎日着るつもりですよ。
――旅先の写真を楽しみにしています(笑)。なんだかこれが一着あると、毎日が楽しくなりそうですね!

単なる洋服ではなく、それを着ることで生まれるストーリーまでデザインするのが、松浦弥太郎の流儀。これからショップに並ぶパパスの秋冬コレクションにも、そんなプロダクトがたくさん秘められています!
松浦 ほんとにそうですね。仕事でも遊びでも旅でも、どんどん着てもらいたい。単に上質な洋服を提案したいというわけじゃなくて、このスーツを着ることで、自分の暮らしがどう変わっていくかを、皆さんにも味わってもらいたいんです。そうそう、言い忘れましたが〝自転車に乗れるスーツ〟というのも、このスーツをつくるうえでのテーマのひとつだったんです。動きやすいし、ナチュラルショルダーだから肩が浮かなくていいんですよね、これ(笑)。
――確かに、松浦さんのヴィンテージの自転車にも、よく似合いそうだなあ(笑)。「THE SHIWA SUIT」の発売は11月とのことですが、続報でその全貌が公開されるのを、楽しみにしています!
松浦 ぼくはアンリ・カルティエ=ブレッソンが撮った、彫刻家アルベルト・ジャコメッティの写真が大好きなんですが、彼が雨の中コットンのレインコートを傘がわりにして歩いてる作品、いいですよね。ああいうふうに、洋服が〝暮らすための道具〟として使われているシーンに、自分の美意識はすごく揺さぶられるんです。今のぼくは、そういう服を着て暮らしたいし、一緒に旅をしたいと思っています。
