vol.27
クリエイティブ
オフィサー就任!
松浦弥太郎が考える
〝人生を楽しむ服〟の
つくり方
皆さんに早く伝えたくて仕方なかった大ニュースを、ようやく発表できました! 過去2回にわたってこのWEBマガジンに登場してくれた松浦弥太郎さんが、2026年秋冬シーズンから、なんとパパスのクリエイティブオフィサーに就任することが決定したのです。早くも打ち合わせで大忙しの松浦弥太郎が〝今考えていること〟ってなんだろう? 来年で40周年を迎えるパパスのこれからを、ひと足先に探ってきました。
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松浦弥太郎10年ぶりのサプライズ!

――パパスのWebマガジン3回目の登場、ありがとうございます! ・・・というか、これからは〝中のひと〟として出ていただくことになりますが(笑)、周囲の方々からの反応はいかがでしたか?
松浦 もちろんお祝いや応援のメッセージをたくさんいただいていますが、今までの仕事や活動の延長線上にあることじゃないから、さすがに「え?」というリアクションもありますよね。ぼくのことをよく知る友人からは「そう来たか」って感心されたりもしましたが。
――いわゆるファッションブランドの中心に入り込んで、本格的にお仕事をされるのは初めてのことですか?
松浦 ぼくは今まで仕事を通じて暮らしにまつわるいろんなテーマに取り組んできましたが、衣食住における〝衣〟の部分にだけは、輪郭に触れることはあっても、その中心に入ることはありませんでした。そういう意味では、自分のこれまでの経験や知識をどうやって〝衣〟のカテゴリーに活かすことができるか、すごくワクワク、ドキドキしますね。


――松浦さんでも緊張するんですか?
松浦 もちろん。仕事だけじゃなくて普段の暮らしにしても、いつもワクワクドキドキしていますよ。当然オロオロもするんですが(笑)、オロオロしたりハラハラしたり、それって人生においてすごく大切なことだと思うんですよね。社会に貢献しながら自分が成長し続けていけることに、感謝しなくてはいけません。
――2006年に『暮しの手帖』の編集長に就任されたときも、2015年に「クックパッド」でいわゆるIT企業に移籍されたときも、きっと今回のように驚かれることのほうが多かったんじゃないですか?
松浦 だいたい10年おきにみんなを驚かせています(笑)。でもそうやって〝はじめまして〟の場所に自分を置いてチャレンジを繰り返すことが、ぼくの生き方そのものだし、ひとつの人生哲学でもあるんですよ。

――松浦さんの〝パパス愛〟は過去2回のインタビューでたっぷり語っていただきましたが、当然パパスには単なるファッションブランド以上の思い入れがあるわけですよね?
松浦 もちろん。ハタチくらいから憧れていた存在だし、たくさん着てきたし、自分なりの解釈はしています。
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――ちなみにどんな服が好きだったんですか?
松浦 シャツやポロシャツは昔から好きだったかなあ。
――どんなところがお好きでしたか?
松浦 ポロシャツって簡単なようで難しくて、身幅とか着丈とか襟の大きさとか、ちょっとしたバランスがものをいう服ですよね。もちろん肌さわりも。そういう意味ではパパスのポロシャツって、1枚で着ても心細さがない(笑)。だから夏になると着たくなるし、冬でもインナーとして使いたくなっちゃう。ただ着心地がいいというだけじゃなくて、元気な気持ちになれるんです。
クリエイティブオフィサーってどんな仕事?


――今回、松浦さんが就かれた「クリエイティブオフィサー」という役職って、普通のひとにはちょっとわかりにくいものだと思いますが(笑)、どんなお仕事になるんですか? 洋服づくりにも携わるんですよね?
松浦 もちろんです。商品企画からはじまって、そのコミュニケーションやブランディング、マーケティング、プロモーション・・・。つまりお客様に喜んでもらうことすべてにおける、意思決定に携わることになります。
――なるほど! 松浦さんが本格的にコレクションに関わるのは次の秋冬からということですが、どんな〝パパスらしさ〟をつくっていかれるのか、とても気になりますね・・・。
松浦 ぼくのパパスにおける役割って、パパスの魅力や世界観を自分なりにわかりやすく言語化するとともに、洋服を通じてそれらをたくさんのお客様に体験として喜んでもらうことなんですね。でも、ぼく自身が〝パパスらしさ〟とか〝パパスとはこうあるべきだ〟みたいな理想像に縛り付けられる怖さも当然あるので、それだけがこれから先のクリエイティブの中心になるとは限らないかな。

――そういえば、松浦さんがこの仕事をお受けする際、真っ先に希望した条件が「全国にあるパパスの店舗の視察とヒアリング」だったとか。毎週鉄人的なスケジュールで出張されていましたよね(笑)?
松浦 そうですね。まずはぼく自身がパパスについて一番詳しくなりたいし、いや、ならなくてはいけないし、その努力をしなくてはいけないと思いました。そこで約3ヶ月をかけて、全国65店舗に伺ったんです。日本のさまざまな土地で働くスタッフやお客様の声を直接聞くことで、初めてぼくは今のパパスを理解することができるし、今の隠れた課題も見つかり、今、自分がほんとうにやるべきことを考えることができるわけですから。
――松浦さんは、そこまで多くは語らないものの、当然ファッションについてもそこらのプロを凌駕するレベルの知見をお持ちなので(笑)、自分より真っ先にお客様の目線に立たれたことに、正直いって驚かされました。
松浦 つくり手側が「我々はこうでなければいけない」みたいなことにこだわりすぎるのって、ある種の思考停止につながると思うんですよ。だからこそ、あらゆる「今」を把握する必要があるんです。
――というと?
松浦 つまり「我々はこうでなければいけない」って、いつかの自分たちのカルチャーや体験に基づいたものであって、すでに過去のことなんですよ。それに対してお客様は、常に今のことや未来のことを思っている。だからそういうお客様にいかにして今、喜んでもらえることをひとつでもふたつでも多く提供して、暮らしを楽しくしたり、感動してもらったり、元気づけたりするための服をつくりたい。そんなふうにお客様と、日々という今を共に歩むのがブランドの役割ですよね。
――あくまでもお客様のニーズに寄り添うと。
松浦 文章だろうとブランドだろうと、お客様の最大のニーズは「お願いだからがっかりさせないで」ということなんですよ。でも我々はうっかりすると、こちら側の都合でついがっかりさせてしまいがちです。
だからそうならないように、ぼくたちの仕事において、毎日自分自身で、自分都合を優先させてないかと指差し確認をしなくてはならない。ものづくりに誠実に向き合って、がっかりさせないものをお届けする。それがお客様との関係性の第一歩ですよね。ハンカチ一枚、ソックス一足であっても、そこに愛情不足があってはいけませんから。

――そうやって店舗やお客様に地道な〝取材〟を重ね続けている松浦さんが、改めて感じるパパスの魅力って、なんだと思いますか?
松浦 40年にわたってお客様に信頼され、支えてもらえたパパスって、やっぱり〝人生を楽しむための服〟なんだと思います。要するに着飾ったり格好つけたりするための服じゃなくて、日々を楽しむための服。パパスの服には「人生を思い切り楽しみたい」という情熱が隅々まで宿っていたから、これだけ長い間お客様にも愛していただけたんじゃないかな。
――〝人生を楽しむための服〟!
松浦 そう、思い切りね。パパスを着ると人生が最高に楽しくなるし、自分のことが好きになれる。そして自分のことを好きになれたら、人のことを愛することだってできるわけじゃないですか。そういう服がある人生って、ほんとうの意味で豊かですよね?
だから究極、パパスは洋服じゃなくて〝生き方〟を買ってもらうブランドなんです。今のぼくは、そんな服を一枚でも多くつくってお客様に喜んでもらうために、自分の人生をかけてパパスのことを考えています。パパスに関わるみんなとそんな気持ちをそろえて、パパスの情熱、パッションをお客様にたっぷりと味わってもらいたい。そしてパパスが今よりもっともっとお客様に愛されるブランドになれたらいいですね。
松浦弥太郎
エッセイスト、編集者、クリエイティブディレクター。「暮しの手帖」前編集長を務め、現在は執筆活動のほか、企業のブランディング・商品開発・コンサルテーションなど、多方面にて活躍。著書多数。ていねいに暮らすことの価値を言葉とデザインを通じて伝えてきた松浦氏が、PAPASの「服を通じて人生を謳歌する」という哲学と響き合うことで、ブランドと共に新たな一歩を踏み出します。
スタジオポートレート撮影/長山一樹
インタビュー撮影/編集部