Vol. 2
春が来た。
パパスを着て
街へ出よう。
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パパスの服は、ふつうの服。ちょっとくらいお腹が出たって、おじさんだって似合う服。いや、むしろそのほうが格好よく見える服! この春、アーネスト・ヘミングウェイを彷彿させるひとりのおじさんが、そんなパパスの魅力と、男と洋服の“あるべき関係”を、改めて私たちに教えてくれました。
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- # モヒート
パパスとモヒートの記念すべき出合い
仕事も遊びも楽しめる大人の男たちが、カジュアルに着られて毎日を心地よく過ごせる服――。1986年にスタートしたパパスが、そんなテーマを体現する人物として掲げたのが、作家のアーネスト・ヘミングウェイでした。パパスというブランド名も、彼の愛称に由来するものです。
ある春の昼下がり、そんな30年以上も昔のエピソードを思い出させてくれるようなおじさんが、広尾にあるパパスカフェにやってきました。
彼の名前は、山下裕文さん。奇遇なことに、アーネスト・ヘミングウェイをイメージしたモヒートというブランドのデザイナーをされている方です。今日は、自分がつくった服と古着しか着ないというポリシーを持つ彼が、初めてパパスの洋服を着るという記念すべき日なのです!
リネンが引き出すヘミングウェイ的色気
いつも着慣れたモヒートの洋服を脱いで、パパスに着替えてくれた山下さん。強撚リネンを使ったステンカラーブルゾンに、甘いピンク色のデニムを使ったハーフパンツ、リネンの半袖ニットポロ。パパスが選りすぐった春夏のワードローブをまとった姿を見て、私たちはびっくりしました。無造作に袖をまくったその姿は、まさしくパパスと山下さんが憧れてやまないヘミングウェイを彷彿させるものだったのです。洗いざらしたリネン素材がそう見せるのか? それともハーフ丈パンツの柔らかなピンク色がそう見せるのか? キューバのヘミングウェイ邸フィンカ・ビヒアのテラスでくつろぐようなリラックスした空気が、確かにそこには流れていました。
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強撚リネンを水にくぐらせながらさらに強く撚るという、手間ひまかけた素材でつくったブルゾンは、実に風合い豊か。長年着られそうなベーシックなデザインも魅力です。インナーに効かせたボタニカル染めのニットポロもリネン素材。ざっくりした素材感が、この季節にふさわしい清涼感をもたらします。
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オフホワイトのリネンブルゾン、ボタニカル染めのリネンニットポロシャツ、「モンサンミッシェル」デニム素材を使ったピンクのハーフパンツ。風合い豊かな素材と、美しいペールトーンのグラデーションが、パパスの真骨頂ともいえる上品なカジュアル感の源泉です。
PAPAS COMPANY TEL 03-5469-7860
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コットンとリネン、ポリウレタンを混紡した「モンサンミッシェル」素材のハーフパンツは、細身でもストレッチ性があり、はき心地は抜群。ウエストはイージー仕様なので、実に快適です。
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パリの雰囲気を漂わせる
デニムのジャケット&パンツ
次に山下さんが着てくれたのは、パパスの春夏における大定番である、「モンサンミッシェル」という素材を使ったテーラードジャケットとパンツです。超長綿とベルギー産リネンに加え、ストレッチ素材を混紡したこの生地は、デニムのイメージを覆すしなやかでサラサラの肌触りが特徴。着た瞬間から体になじんで、まるでずっと前から着ていたかのような、ナチュラルな表情を引き出してくれます。
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柔らかな天竺素材を使ったポロシャツは、ヴィンテージ感溢れるプリントと前立ての長さが特徴です。
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ジャケットの襟裏には、ギンガムチェックのアクセントが。
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きれいな木型を使ったパパスの隠れ名品、キャンバススニーカー。
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アメリカとフランスの要素をミックスしたかのようなこちらのセットアップのイメージは、もちろんパリのヘミングウェイ。ポロシャツのボタンなんて、留めたって留めなくたっていい。丈が合わなければ、適当にまくり上げればいい。今日は襟、立ってる?ならそのままでOK! 無理して洋服に自分を合わせるんじゃなくて、自分に洋服を合わせちゃう。ぐぐいと引き寄せちゃう。そうすることでパパスの洋服は、着る人の〝らしさ〟を最大限引き出してくれるのです。これこそがヘミングウェイの流儀であり、人と洋服との正しき関係なのかもしれませんね。
素肌に着ても気持ちいい、「モンサンミッシェル」素材の半袖ブルゾン。パッチポケットやワッペンを配したデザインも実に楽しい。
PAPAS COMPANY TEL 03-5469-7860
ヘミングウェイを愛する
デザイナーが語る
パパスというブランド
今回、自らの装いを通してパパスの魅力を再認識させてくれた山下さんは、1968年生まれ。文豪ヘミングウェイとの出会いは意外にも早く、なんと高校生くらいからだったといいます。
「ぼくが青春を過ごした1980年代は、BRUTUSやGQといった男性誌が、ヘミングウェイのライフスタイルをこぞって特集していた時代。〝旅する文豪〟という異名があるように、彼は男が理想とすることを全部やりきった、憧れの存在なんです。世界中を旅して、酒が強くて、釣りや狩猟もできて、ノーベル賞まで受賞しちゃう。なんたって、結婚も4回していますしね(笑)」
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ヘミングウェイやアメリカへの憧れを通してファッションの道に進んだ山下さんは、本物のアメリカンカジュアルをいち早く日本に紹介した名店、プロペラのバイヤーなどを務めたのち、2010年に満を持してモヒートを設立。旅する文豪にオマージュを捧げたこのブランドを立ち上げるうえで、やはりパパスの存在は意識せざるを得なかったと言います。
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「洋服そのものをじっくり見たことはありませんが、もちろんその存在は知っていました。パパスといえばヘミングウェイであり、丸の内にあるパパス本店ですよね。実を言うとモヒートを立ち上げたときには、『ヘミングウェイの流儀』という書籍を手がけた今はなきライター、山口淳さんから忠告されたんです。ヘミングウェイをアイコンにしたブランドは数あれど、成功したのはパパス以外にないって(笑)。いろんなブランドが手を出しても、結局あの世界観を貫ききれなかったんですよね。そういえば山口さんは亡くなる前に、ご自身が収集した『PAPAS BOOK』をぼくに手渡すように遺言してくださいました。今でもなんとなくモヤモヤしたときは、ヘミングウェイの写真とともに、『PAPAS BOOK』を眺めるようにしています。正直言って全く規模が違うので仰ぎ見ることしかできませんが、こういうことができたらいいなって思いますね」
お互いヘミングウェイの存在を追いかけながらも、今まで交わることのなかったパパスと山下さん。彼は初めての邂逅について、このように語ってくれました。「最近では声高に言えない時代になってしまったけど、男っぽい洋服の代名詞としての存在をブラさず貫き通している点を尊敬します。パパスは知的かつ文化的なライフスタイルから生まれた〝モテる服〟というか、あくせくしていないんですよね。あと、若くてスマートな男の子より、ぼくたちのように体型コンプレックスを抱えた大人のほうがうまく着こなせる点も嬉しいかな。ちなみにこのデニムパンツは何サイズ展開されているんですか? えっ、7サイズを8色展開!? それはもう真似できませんね(笑)」
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デュラレックスのタンブラーに赤ワインを注ぎ、美味しそうに飲みながら話す山下さんの姿を見ていたら、なんだか羨ましくなってきました。ああ、ぼくたちもパパスを着て街に出たい! もちろんポケットにはヘミングウェイの文庫本を忍ばせて、ね。
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PROFILE
山下裕文(HIROFUMI YAMASHITA)
1968年熊本県生まれ。伝説の名店「プロペラ」でプレスやバイヤーとして活躍後、アメリカの西海岸を代表するショップの日本上陸に携わる。独立後は国内外を問わず数多のファッションブランドの業務を手掛け、2010年に自身のブランド「モヒート」を設立。以来男たちのための〝道具としての服〟を追求し続ける。